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東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)64号 判決 1990年6月13日

原告 医療法人 社団亮正会

右代表者理事長 加藤信夫

右訴訟代理人弁護士 中町誠

被告 中央労働委員会

右代表者会長 石川吉右衛門

右指定代理人 萩澤清彦

<ほか三名>

被告補助参加人 総評全国一般労同組合 神奈川地方連合

右代表者執行委員長 倉田健治

<ほか二名>

右各被告補助参加人訴訟代理人弁護士 野村和造

同 福田護

同 岡部玲子

主文

一  中労委昭和六〇年(不再)第五九号事件について、被告が昭和六三年三月二日付けでした命令を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とし、参加費用は被告補助参加人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告補助参加人らは、原告を被申立人として、昭和六〇年二月二七日、神奈川県地方労働委員会(以下、「神労委」という。)に救済申立てをし(神労委昭和六〇年(不)第三号不当労働行為救済申立事件)、神労委は、昭和六〇年一二月一三日付けで別紙(一)のとおりの命令(以下、「初審命令」という。)を発した。

原告は、右初審命令を不服として被告に再審査の申立てをしたところ(中労委昭和六〇年(不再)第五九号事件)、被告は、昭和六三年三月二日付けで別紙(二)のとおりの命令(以下、「本件命令」という。)を発し、右命令書の写しは同年五月二八日原告に交付された。

2  しかしながら、本件命令は、事実認定及び法律判断を誤った違法なものであるから、その取消しを求める。

(一) 救済命令の違法性判断の基準時は命令発令時であると解すべきところ、次のとおり、本件命令発令時たる昭和六三年三月二日以前に、初審命令第1、第2項は履行不能又は履行済みとなり、これに対応する救済利益は失われていたから、本件命令は、これらを維持した点において違法たるを免れない。

(1) (本件命令中初審命令第1項(1)を維持した部分の違法性)

① (期間経過による原職復帰の履行不能)

初審命令第1項は、長谷川智(以下「長谷川」という。)及び松岡延子(以下「松岡」という。)の雇用契約の期間が一年間であることを前提とし、長谷川については昭和六一年二月一八日までの間を、松岡については同年三月二日までの間を、それぞれ命令の対象としている。

すなわち、初審命令を発令した神労委自身が、神労委昭和六二年(不)第一〇号不当労働行為救済申立事件についての救済命令において説示するところによると、同委員会は、長谷川及び松岡の雇用契約の期間が一年間であることを前提として、長谷川については昭和六一年二月一八日までの間の、松岡については同年三月二日までの間の、各バックペイを命じた、というのであり、しからば、同命令第1項(1)の「現職復帰」も、長谷川については昭和六一年二月一八日までの間を、松岡については同年三月二日までの間を、それぞれ命令の内容としているものと解される。

そうすると、救済命令の違法性判断の基準時である本件命令発令時たる昭和六三年三月二日においては、既に昭和六一年二月一八日及び同年三月二日は経過しているから、本件命令にある「原職復帰」は事後におけるその履行の有無にかかわらず、履行不能に帰していたものというべきである。

② (仮処分による原職復帰)

横浜地方裁判所川崎支部は、昭和六〇年一二月二六日、長谷川及び松岡の申請に基づき、一年間の雇用契約上の地位保全及び一年間の賃金仮払(長谷川につき、昭和六〇年二月一九日から昭和六一年二月一八日まで毎月二八日限り金九万九〇八六円、松岡につき、昭和六〇年三月三日から昭和六一年三月二日まで毎月二八日限り金九万八一六〇円)を内容とする仮処分決定を下した。しかして、原告は、仮処分異議、起訴命令等の法的手続をとらず、右決定に服することとし、同日、右両名に対して、それぞれ右同月分までの賃金相当額を支払い、さらに、翌昭和六一年一月から右両名に対し、原職たるナースコンパニオンとして従来と同一の就労場所において就労することを認めた。そして、右両名は、昭和六一年一月から原職に復帰した。

仮処分に従うという趣旨であるにせよ、原告は、長谷川及び松岡を、現実に「原職」に復帰して就労させているのであるから、右両名の原職復帰はその日から履行されている状態となったので、その点の救済利益は消滅したものというべきである。

③ (新契約成立による原職復帰)

長谷川及び松岡は、原告との間において、それぞれ昭和六一年二月又は三月、期間を一年間とする昭和六一年度の雇用契約を締結し、右両名は、右各契約内容に従って、原職たるナースコンパニオンとして従来と同一の就労場所において就労し、原告からの賃金の支払を受けるに至った。したがって、長谷川及び松岡は、昭和六一年二月ないし三月以降、個別の契約により「原職復帰」の状態にあったのであるから、本件命令発令時においては救済利益を欠いていたものというべきである。

なお、右両名は、その後も各契約期間満了の際、期間一年間の同旨の契約を締結し、各契約内容に従って、原職たるナースコンパニオンとして従来と同一の就労場所において就労し、原告からの賃金の支払を受けている(ただし、松岡については昭和六三年一月一九日まで。)

④ (松岡の退職による原職復帰の履行不能)

松岡は、昭和六三年一月一九日付けをもって、自己都合により原告を退職した。松岡の右退職の事実は、本件命令発令以前に被告に上申され、被告は右事実を把握していた。

したがって、松岡については、右退職により「原職復帰」は客観的にありえなくなっていたから、本件命令発令時には、同人に関する救済利益は失われていたものというべきである。

(2) (本件命令中初審命令第1項(2)を維持した部分の違法性)

① (仮処分によるバックペイの履行)

前記のとおりの横浜地方裁判所川崎支部の仮処分決定が昭和六〇年一二月二六日に発令され、これに対して、原告は、仮処分異議、起訴命令等の法的手続をとらず、右決定に服することとし、同日、右両名に対して、それぞれ右同月分までの賃金相当額を支払い、さらに、翌昭和六一年一月から右両名の原職による就労を認めた。そして、右両名は、右金員を格別「仮払金」として保管することなく、従来得ていた賃金と同様に生活費に充当、費消し、原職に復帰した。

したがって、初審命令第1項(2)については、「年五分相当額」の支払を命じた部分を除いて、既に完全に履行済みである。

救済命令制度は、不当労働行為を排除し、申立人をして不当労働行為がなかったと同じ事実上の状態を回復させることを目的とするものであるから、仮処分の法的な性格に拘泥して、これに基づく支払を考慮しないとすることは失当である。むしろ、仮処分の執行力に担保された金員支払がなされているという実質を直視し、仮処分命令の取消しが明白であるなどの特段の事情のない限り、右仮処分に基づく支払のあった事実を斟酌するのが当然である。

② (仮処分による就労に対する賃金支払)

前記の仮処分決定後、昭和六一年一月からは、原告は、右両名を現実に就労させて、賃金を支払った。したがって、右就労時から、初審命令第1項(2)の命じている昭和六一年二月一八日までの間(長谷川について)又は同年三月二日までの間(松岡について)のバックペイは、これを命ずる余地はなくなっていたから、この点の救済利益は失われたものというべきである。

③ (新契約による就労に対する賃金支払)

仮に、初審命令が命じたのが長谷川につき昭和六一年二月一九日以降の、松岡につき同年三月三日以降の、各バックペイをも含むものであるとしても、長谷川及び松岡は、原告との間において、前記のとおり、期間を一年間とする昭和六一年度の雇用契約を締結し、右両名は、右各契約内容に従って就労し、原告からの賃金の支払を受けるに至った。したがって、長谷川及び松岡は、昭和六一年二月又は三月以降、新たな個別の契約により賃金の支払を受けていたのであるから、それ以降のバックペイの救済利益を欠いていたものというべきである。

④ (松岡の退職による原職復帰の履行不能)

さらにその後、松岡は、昭和六三年一月一九日付けをもって、自己都合により原告を退職した。松岡の右退職の事実は、本件命令発令以前に被告に上申され、被告は右事実を把握していた。

したがって、松岡については、右退職により就労が客観的にあり得なくなっていたから、本件命令発令時には、同人に関する救済利益はバックペイについても失われていたものというべきである。

(3) (本件命令中初審命令第2項を維持した部分の違法性)

本件命令中初審命令第2項を維持した部分は、以下の各点から、救済利益を欠く。

すなわち、

① 初審命令第2項のいう「原職復帰」は、前記のとおり、本件命令発令時には、履行期の最終期限たる昭和六一年二月一八日又は同年三月二日の経過により履行不能に帰していたものであるところ、履行不能の問題について団体交渉を命ずることはまったく無意義である。

② 長谷川及び松岡は、昭和六一年二月又は三月以降、個別の契約を締結して完全に原職復帰を果たしているから、これについて団体交渉を命ずることはまったく無意義である。

③ 松岡については、その後の退職によって原職復帰が客観的にあり得なくなったから、これについて団体交渉を命ずることはまったく無意義である。

(二) 原告が昭和六〇年に長谷川及び松岡に対して雇用契約の申込みをしたことは、不当労働行為には当たらない。

原告が昭和六〇年に長谷川及び松岡に対して申し込んだ雇用契約の内容は、契約期間、賃金その他の労働条件において、原告が雇用する他のナースコンパニオン全員と同一であって、長谷川及び松岡について格別に不利益な取扱いをしたことはない。長谷川及び松岡を除く他のナースコンパニオンは全員、右申込みを受け入れたが、右両名は自己の自由な意思による選択によってこの申込みを拒否したために、新規の契約が成立しなかったものにすぎない。

(三) 原告が昭和六〇年二月に補助参加人ら(以下、補助参加人総評全国一般労働組合神奈川地方連合を「補助参加人地連」と、同総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎支部を「補助参加人支部」と、同総評全国一般労働組合神奈川連合川崎支部高津中央病院分会を「補助参加人分会」という。)からの団体交渉申入れに対して、労働組合の組織事情等について明確にするように求めたのは、次のような事情に基づくものであって、正当なことである。

(1) 従来、原告の従業員によって組織された唯一の労働組合として川崎地域労働組合高津中央病院支部(執行委員長大淵百合子)が存在し、原告は、右と団体交渉を重ねてきた。

ところが、昭和五九年夏から秋にかけて、川崎地域労働組合は、全国一般労働組合加入をめぐって内部で意見の対立を生じ、同年一一月一九日付けの同労働組合ニュースによって、同労働組合高津中央病院支部執行委員長大淵百合子ら一〇名の組合員の「決別宣言」なる声明文が公表された。そして、同日付けで原告に提出された「昭和五九年冬期一時金要求書」及び「団体交渉申入書」は、「高津中央病院支部執行委員長代行」と称する関山進名のものであった。

そこで、原告は、大淵百合子に対して、同月二八日、かかる経緯の照会を行うとともに、右賞与支給についての提案をした。しかるに、右照会に対して、同月二九日付けで、川崎地域労働組合中央執行委員長上野久雄及び前記支部「執行委員長代行」と称する関山進の連名により、一一月一四日大淵百合子より中央執行委員長に辞任届が出され、関山進執行委員を執行委員長代行に決定した旨の回答が出され、一方、大淵百合子からは、同年一二月一日付けで、組織の決定を受け関山進が執行委員長代行として支部を運営している旨の回答が提出された。しかるに、同日付け「昭和五九年冬期一時金」の協定書は、「支部執行委員長大淵百合子」名で記名押印がなされた。さらに、提出された支部組合規約によれば、「委員長事故あるときは、副委員長が代行する」と定められており、右規約上、副委員長でない関山進が委員長代行にはなり得ないのではないかとの疑義もあった。

こうしたことから、原告は、団体交渉の相手の代表権限、適格性に疑問をもち、これを明確にすべきものと考え、同年一二月一五日付け文書で、川崎地域労働組合高津中央病院支部執行委員長大淵百合子あてに、支部執行委員長をいつ辞任したのかなど五項目の照会を行ったが、大淵百合子自身からは何の回答もなく、その後、「全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部高津中央病院分会執行委員長大淵百合子、執行委員長代行関山進」の連名で「大淵百合子は執行委員長を辞任したものではない」などの回答がなされた。

(2) 右と平行して、昭和五九年一二月一一日、川崎地域労働組合は補助参加人支部に、川崎地域労働組合高津中央病院支部は補助参加人分会に名称を変更した旨の「川崎地域労働組合中央執行委員長上野久雄、同高津中央病院支部執行委員長大淵百合子、同執行委員長代行関山進」連名の文書による通知があった。

しかし、右「名称変更」の通知には、次のような疑問があった。すなわち、

① 全国一般労働組合は、地方本部・支部・分会を下部組織としている法人格のある労働組合であり、他方、川崎地域労働組合も同様に支部を下部組織にもつ法人格を有する単位労働組合であるが、単一労働組合の性質上、団体加盟を肯定することは背理であり、一方が他方に加盟するということはあり得ないのではないか。

② 昭和五九年秋に、川崎地域労働組合が全国一般労働組合神奈川地方連合への加入問題をめぐって内紛を起こし、執行委員長ほか九名が、右加入賛成派一〇名に対して決別宣言を出したという前記の経過から考えると、全国一般労働組合への加入賛成派の一〇名が個々に右労働組合に加入し、その下部組織として神奈川地方連合川崎支部及び同支部高津中央病院分会を作って、既存の川崎地域労働組合と別個に出発したとみるべきではないのか。

という疑問である。

③ こうした経緯を経て、原告は、昭和六〇年二月一八日には「高津中央病院分会執行委員長関山進」名の、同月二三日には「全国一般労働組合神奈川地方連合執行委員長倉田健治、同川崎支部執行委員長上野久雄、同高津中央病院分会執行委員長関山進」三者連名の本件団体交渉の申入れを受けた。そこで、原告は、従来どおり川崎地域労働組合高津中央病院支部との間で労働問題を解決していく所存であるので、新たに労働組合を結成したのであれば、調整の上大淵百合子を通じて回答するように求めた。

これに対して、大淵百合子からの回答はなく、同年三月二日、前記三者連名で、神労委発行の「組合資格決定書」を添付した団体交渉の申入れがあった。そこで、原告は、同年三月四日付けで「回答、質問並びに申入書」をもって、補助参加人分会に対し、団体交渉開催に当たっての求釈明を行った。

しかるに、補助参加人らは、原告からの右質問に対し、「すでに組合より回答済の件もあり、質問自体不明で回答できません」との回答を提出したにとどまり、補助参加人地連執行委員長の権限と責任の範囲、交渉主体、補助参加人分会の当事者適格、同分会結成の適法性等について明らかにせず、あいまいな態度に終始した。

原告の右質問事項は、労働組合との交渉に先立って確認しようとすることが当然の事柄であるのに、補助参加人らは、これに対する対応を怠ったままで性急に原告との団体交渉を求めるが、かかる態度は信義則に反するもので、補助参加人らの側のこの点の不信義を無視して原告の対応を不当労働行為とすることは失当である。

(四) 本件命令中初審命令第3項を維持した部分は違憲、違法である。

(1) 初審命令第3項において掲示を命ぜられている文書は、「誓約書」という題で、しかも、文中に「当社団は、ここに深く反省」、「誓約」との文言を入れることを義務付けている。しかし、原告に対し、その意に反して「反省」、「誓約」の意思表示を過料、刑罰の制裁のもとに強制することは、憲法の保障する内心の自由を侵害するものである。すなわち、憲法一九条で保障された思想・良心の自由は、単に物事に関する是非弁別の内心的自由のみならず、かかる是非弁別の判断に関する事項を外部に表現し、また表現しない自由(いわゆる「沈黙の自由」)を包含する。そして、思想・良心は、およそ内心に留まるかぎり、それ自体として社会に害悪を及ぼすことはないから、公共の福祉によってこれを制限することは許されず、その保障は絶対的である。この理は、原告が法人であることによって異なるところはない。したがって、本件命令が、原告に対し、その意に反して「反省」、「誓約」の意思表示を過料、刑罰の制裁のもとに強制することは、憲法一九条に違反する。

(2) また、初審命令第3項が掲示を命ずる文書の内容は報復的、懲罰的性格を有し、原状回復の趣旨を逸脱しており、労働委員会の裁量権の範囲を超えるという点でも違法である。

3  本件救済命令の引用する初審命令の「第一 認定した事実」についての認否は、次のとおりである。

(一) 「1 当事者」について

(1) (1)ないし(3)の事実は知らない。

(2) (4)の事実中、原告が中央調剤薬局及び高津看護専門学校を経営していた場所が肩書地であることは否認するが、その余の事実は認める。原告が肩書地で経営しているのは、高津中央病院のみであり、その余は所在地が異なる。なお、中央調剤薬局は、昭和六三年二月一日をもって原告から分離し、有限会社中央調剤薬局として独立した。

(二) 「2 本件発生前の労使紛争」について

(1) 組合の名称変更の事実は知らない。

(2) (1)の事実中、当該救済命令申立て取下げの契約は否認するが、その余の事実は認める。

(3) (2)及び(3)の事実は認める。

(4) (4)の事実中、原告が一時金を支給した相手方が「非組合員」であったことは争い、その余の事実は認める。原告は、原告提示の支給額に同意した者に対して一時金を支払ったものである。

(三) 「3 ナースコンパニオンとその労働契約の実情」について

(1) (1)の事実中、ナースコンパニオンの説明部分及び本件当時のパートタイマー就業規則に年次有給休暇に関する規定があったことは争い、その余の事実は認める。昭和六〇年一月一六日のパートタイマー就業規則改定により、年次有給休暇に関する第二五条の規定は削除され、本件当時、同就業規則に右規定は存在していなかった。

(2) (2)の事実中、雇用契約について「更新」とある点は否認する。当該契約は更新されたものではなく、新たに締結されたものである。

同ウの事実中、昭和五八年五月に原告から書面による雇用契約の締結を求められたパートタイマーの該当者のうちに組合役員に「この契約に応じてよいのか」と聞く者があったことは知らない。また、川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部が原告に対して雇用契約書作成を求める趣旨を文書で回答するよう求め、原告がこれを約し、右文書の提出が同年六月三日に至ってもなされなかったので、川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部が原告に抗議したこと及び増元部長の説明が右のような書面の提出の遅滞に対する抗議の結果であること並びに右増元部長の発言内容は、いずれも否認する。増元部長は「書面は今までどおりのものである。来年のことは分からない」と明言した。さらに、組合側がパートタイマーの雇用契約についての契約書作成に応諾した動機の点は知らない。

(2)の事実中、右以外の点はすべて認める。

(四) 「4 上部団体加盟に関する社団の対応」について

川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部が「上部団体に加盟した」とする点及び関山進が「執行委員長代行」であったとする点は争う。全国一般労働組合は連合組合ではなく単一組合であるから、上部団体ではない。また、組合規約によれば、執行委員長代行は、副執行委員長のみが代行し得るのであって、一執行委員である関山進は執行委員長代行たり得ない。

(五) 「5 ナースコンパニオンの雇止めと団体交渉拒否」について

(1) 雇用契約について「更新」とある点はすべて否認する。当該契約は更新されたものではなく、新たに締結されたものである。

(2) (1)の事実中、長谷川が松井職員課長代理から昭和六〇年二月一六日に契約書案を示された際従前の契約条件と相違があることに驚いたことは否認し、同人が分会に相談したことは知らない。増元部長が同年二月一八日に自宅を訪ねた者の数及び同部長が「懇請」したとの点は否認する。

(3) (3)の事実中、昭和六〇年二月一六日の団体交渉申入れの経緯が長谷川からの事情の報告にあったとの点は知らない。

(4) 「5」の事実中、右以外の点はすべて認める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実中、原告主張の仮処分決定があったこと及び原告が、被告に対し、松岡が原告を退職した旨を記載した昭和六三年二月二七日付け上申書を提出したことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。本件命令の理由は別紙(二)の命令書理由欄記載のとおりであって、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。

3  原告の主張に対する反論は、次のとおりである。

(一) 松岡の退職により本件命令は違法となることはない。

松岡が原告を退職したことにより、その退職時以降バックペイ等の救済の必要性はその性質上消失したが、同人の退職時までについての救済はいまだに必要性が存在しており、原告主張のごとくすべての救済利益が失われたわけではない。そのため、被告は、前期上申にもかかわらず審問を再開することなく初審命令を維持したものであり、初審命令救済主文を変更せずとも直ちに違法となるものではない。原告は、本件命令の履行として松岡の退職時までについて命令を履行すれば足りるものである。

(二) 長谷川及び松岡が仮処分決定に基づいて金員を受領したことにより、本件命令が違法となることはない。

仮処分制度は、法的な仮の地位を定めるものであって、労働委員会が救済命令において仮処分に従って支払われた金額を控除すれば、その控除された部分は依然として仮の支払にとどまることになる。救済命令は確定的なものであって、緊急命令のように仮の履行を命ずるものではないから、仮処分決定との関係で必要性を考慮しなければならないものではない。したがって、救済命令においては、右控除をせず全額の支払を命ずべきものであり、他方、使用者としては、仮処分決定に従って支払った部分を救済命令の履行として充当することができると解すれば足りる。

(三) ポスト・ノーティス条項に「反省」、「誓約」の文言を用いることは憲法一九条に反しない。

ポスト・ノーティスは、使用者の行為が労働委員会によって不当労働行為と認定された事実を関係者に周知徹底させ、将来同種の行為の再発を抑止することを主眼として労働委員会の裁量によって用いられる救済方法の一つであって、その中に「反省」、「誓約」の文言を用いても、使用者に対して、倫理的判断や内心の意思表示を要求することに本旨があるものではない。

三  補助参加人の主張

1  (期間経過及び新契約成立に基づく救済利益喪失の主張について)

原告は、本件命令中初審命令第1項(1)及び第2項を維持した部分の取消しを求める根拠として、本件命令の対象とする期間の経過による履行不能あるいは新契約に従った原職復帰により、本件命令発令時には救済利益が欠けていたと主張する。

しかし、長谷川及び松岡の雇用契約上の地位が各年ごとに独立したものであって、本件命令の命ずるところが昭和六一年二月又は同年三月までのものであるとするのは誤りである。すなわち、長谷川及び松岡の法的地位は、それぞれ当初の採用以来継続してきたものであって、各期の間には連続性があり、各更新時における契約書に対応した複数の契約が別個のものとして存在するわけではない。確かに、昭和六一年の時点で、長谷川及び松岡について新しい雇用契約書が作成されているけれども、両名いずれについても、当初の採用以来の法的地位が継続しているものと解すべきである。不当労働行為の救済は、その不当労働行為がなかった状態に原状回復するものでなければならないから、初審命令及び本件命令が命じたのは、長谷川及び松岡が昭和六〇年の時点で従来どおり契約更新されたのと同様の状態にすることであると解さなければならず、だからこそ、初審命令及びこれを維持した本件命令は、従来の雇用契約との継続性、連続性を前提として、雇止めがなかったと同様の状態に回復することを命じたものと解すべきである。長谷川及び松岡は、少なくとも解雇の法理が類推適用される法的地位にあるのであるから、昭和六〇年の雇止めから一年間が経過しても、右両名の真実の意思が原職への復帰要求自体を放棄するものでない以上、原職復帰の救済利益が消滅することはない。

また、そもそも救済命令が命じたのは長谷川及び松岡を「原職に復帰させること」であるのに、原告が主張する内容は、右両名を「原職に復帰させた」といえるものではなく、この点でも救済利益が失われたということはできない。右両名が新しい契約書の作成に応じたのは、原告から提示された契約書案に不服を述べれば、原告において合意が成立しないことを理由として、再度右両名を職場から放逐することが火をみるよりも明らかであったからにすぎず、右両名は原職に復帰する要求自体を放棄したのではない。

2  (松岡の退職について)

原告は、本件命令中松岡に関して初審命令第1、2項を維持した部分の取消しを求める根拠として、松岡の退職によって補助参加人側の救済利益が失われたと主張するが、かえって、右事実は、原告側において右部分の取消しを求める法律上の利益を失わせるものというべきである。

すなわち、松岡は、初審命令あるいは本件命令の履行と無関係に自己都合により昭和六三年一月一九日付けをもって原告を退職した。そのため、確かに、松岡の雇止めと原職復帰に関する部分は解決し、松岡に関しては補助参加人らには本件命令を求める実益がなくなった。その反面、初審命令後の退職という事実により、初審命令のうちもはや履行を求める必要がなくなった部分は、その基礎を欠くことによって当然に効力を失い、原告は、この部分に拘束されることはない。すなわち、原告は、当該命令の存否にかかわらず、松岡に関する部分について本件命令の履行を強制される可能性が一切ない。

したがって、松岡の原職復帰とこれについての団体交渉に関しては、補助参加人らにその履行を求める実益がなくなった反面として、原告にもその部分の取消しを求める法律上の利益が失われている。被告が、初審命令を変更せずに原告の再審査申立てを棄却しても何ら問題はなく、本件命令に原告主張の点の違法はない。

3  (仮処分による金員の支払及び新契約による賃金の支払について)

原告は、本件命令中初審命令第1項(2)を維持した部分の取消しを求める根拠として、仮処分決定に基づく賃金相当額の支払を主張するが、仮処分決定に基づく支払はあくまで仮のものであるから、それがなされたからといってバックペイの救済利益が失われるものではない。

また、昭和六〇年度におけるナースコンパニオンの時間給は、昭和五九年度のそれより金五円上げられているところ、右仮処分が命じた支払額は、昭和五九年度における過去三か月間の平均賃金額を基準とするものである。本件救済命令の命ずる支払額は、雇止めがなかったと同額、すなわち、他の者と同基準たる時間給による金額、つまり、昭和五九年度より金五円高い時間給によって算定される金額であるべきであり、その差額については仮払すら行われていない(非組合員とのかかる賃金格差については、補助参加人らは是正内容を明確にするために、別途、不当労働行為救済の申立てをし、長谷川につき昭和六一年二月一九日以降の、松岡につき同年三月三日以降の、各賃金について是正の救済命令が発令されている。)。

4  (長谷川及び松岡に対する雇用契約更新拒絶の不当労働行為性について)

原告は、昭和六〇年には、一律にすべてのナースコンパニオンに対して同一の労働条件で雇用契約の申込みをしたとして、長谷川及び松岡に対して不利益な取扱いはしていないと主張するが、原告は、パートタイマー組合員を排除する目的をもって、長谷川及び松岡らの右応諾拒否を見越して、あえて合理的根拠のまったくない労働条件の不利益変更を持ち出したもので、非組合員に対しては密かに長谷川及び松岡らに対するのと異なる取扱いをしていたのであるから、右両名に対する雇用契約更新拒絶の不当労働行為性は明らかである。

5  (団体交渉拒否の正当な理由の欠缺について)

原告は、団体交渉を拒否した理由として補助参加人らの組織事情についての求釈明に補助参加人らが応じなかったと主張するが、当時の事情は初審命令の認定のとおりであって、原告の右求釈明は団体交渉拒否の口実にすぎない。

名称変更は、専ら補助参加人ら労働組合内部の問題であって、原告の団体交渉拒否の理由とはなりえない。補助参加人地連は団体加盟を許さないものではなく、また、独立した社団性を有する支部及び分会が、単一組織としての内部規約を有する上部団体に加盟することによってその下部組織となりつつ、従前どおりの地域別又は企業別の組織として独立した社団性を有し続けることもあり、団体加盟自体には何ら矛盾はなく、川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部と補助参加人支部及び同分会との間の同一性を疑うべき理由はない。

6  (ポスト・ノーティスの合憲性、適法性について)

ポスト・ノーティス条項に「反省」、「誓約」の文言を用いても憲法十九条には違反しない。

ポスト・ノーティスは、その制度の趣旨からも実態からも、使用者の内心を問題にしているものではないから、内心の自由を侵害するものではない。さらに、法人は個人と異なり人格の核心というべき内心をもたないから、法人である被告に対するポスト・ノーティス条項の合憲性を判断するに際しては右性質上の差異をも考慮すべきである。

また、我が国では、名誉毀損に関する謝罪広告の合憲性が認められ、永く制度として定着しているところ、新聞紙上に謝罪広告を掲載することを強制する場合と比較して、本件ポスト・ノーティスは、特定の場所への掲示を命ずるものにすぎず、方法として穏便なものにすぎない。

原告に対しては、既に六件の不当労働行為救済命令が発せられており、それは原告の執拗な組合攻撃の悪質性と無反省の表れである。かかる不当労働行為の結果として、当初二〇〇名以上いた組合員が、一〇名以下になってしまったのであって、原告の不当労働行為の悪質さと補助参加人らの受けた団結権侵害の痛手の深さとに鑑みれば、本件命令が初審命令の文言をそのまま維持したことは正当である。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1のとおり本件命令が発せられて原告に交付されたことは、当事者間に争いがない。

二  不当労働行為の成否の点は措き、原告が請求原因2の(一)で主張する本件命令の適法性について検討する。

1  (原職復帰及びバックペイを命じた部分について)

長谷川及び松岡の雇止めに対し原職復帰及びバックペイを命じる救済命令につき、救済利益が喪失した旨の主張について判断する。

まず、右雇止めに至った経緯に関する次の事実は、当事者間に争いがない。

(一)  長谷川は昭和五四年二月一九日、松岡は昭和五五年三月三日、それぞれ原告に雇用期間を一年間とするパートタイマーとして雇用された者であり、いずれも右各雇用時から原告が経営する総合高津中央病院において、パートタイマーの看護助手(原告における名称「ナースコンパニオン」)として稼働し、その後も昭和六〇年二月又は三月の各雇用期間満了時までは、毎年、右各雇用期間の終期と始期との間に間隔を置くことなく雇用契約関係を継続してきた。

(二)  原告は、昭和六〇年二月一四日ないし同月一六日の間に、松井職員課長代理を通じて、同年二月一八日に契約期間が満了する長谷川らナースコンパニオン四名に対し、その後の新契約の条件として、「(1)新契約は、契約期間終了の一週間後である同月二五日から昭和六一年二月一四日までを雇用期間とするパートタイマー雇用契約としたい、(2)年次有給休暇は付与しない、(3)時間給は五円上げ七五〇円とする」との提案をした。

(三)  右提案を受けたナースコンパニオンらは、新契約案によると年次有給休暇が付与されないことなどから、新契約についての諾否を保留したため、原告は、年次有給休暇に代わる休暇制度として特別有給休暇を六日間付与し、未消化の年次有給休暇についてはそれ相当の金額を退職慰労金名目で補償するという最終提案をして長谷川以外の非組合員三名の了解を取り付け、新契約を締結した。

(四)  長谷川に対する新契約の当初の提案は同年二月一六日に行われ、同人も、他のナースコンパニオン同様新契約に対する諾否を保留し、長谷川の所属する補助参加人分会は、「ナースコンパニオン新契約に伴う労働条件の変更について」を議題とする団体交渉を申し入れた。原告は、長谷川に対して他の三名の非組合員と同様、特別有給休暇を付与する旨の条件を付加した最終提案をしたが、長谷川は、補助参加人分会が団体交渉の申入れをした後のことでもあり、また、自分自身でも右提案の条件に納得できないとして、従前の契約期間満了日の翌日である同月一九日から就労したい旨申し出て、同日朝、就労の意思をもって職員課に赴いたが、就労を拒否された。

(五)  松岡の従前の雇用期間の満了日は同年三月二日であったところ、同人が、原告からの新契約の提案を受けたのは、補助参加人らが神労委に対して本件不当労働行為救済申立てを行った翌日の同年二月二八日であった。同人が提示を受けた新契約案は、「(1)新契約の雇用期間は、従前の契約の満了日の一週間後である同年三月九日から一年間とする、(2)時間給は五円引き上げる、(3)年次有給休暇は付与しないが、特別有給休暇を六日間与える」という内容であった。松岡は、右提案を拒否して従前の雇用期間満了日の翌日から引き続き働きたい旨申し出たが、原告は、新契約の不成立を理由に松岡の就労を拒否した。

そして右雇止めに対する補助参加人らの救済命令の申立ての後、次のとおり仮処分決定がされ、雇用契約が締結されている。

(一) 横浜地方裁判所川崎支部が、昭和六〇年一二月二六日、長谷川及び松岡の申請に基づいて、一年間の雇用契約上の地位保全及び一年間の賃金仮払(長谷川につき昭和六〇年二月一九日から昭和六一年二月一八日まで毎月二八日限り金九万九〇八六円、松岡につき、昭和六〇年三月三日から昭和六一年三月二日まで毎月二八日二八日限り金九万八一六〇円)を内容とする仮処分決定を下したことは、当事者間に争いがない。

(2) 右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、原告は、右仮処分決定に対して、仮処分異議、起訴命令等の法的手続をとらず、これに従うこととし、右両名に対して、それぞれ昭和六〇年一二月分までの賃金相当額を支払ったこと、右両名は、右金員を格別「仮払金」として保管するといった処置をとることなく、従来得ていた賃金と同様に生活費に充当、費消したこと、原告は、昭和六〇年一二月二七日付けで、長谷川に対しては昭和六一年二月一八日までの、松岡に対しては昭和六一年三月二日までの各就労を求める内容証明郵便による通知をし、右両名は、昭和六一年一月九日、ナースコンパニオンとして従来と同一の就労場所において就労するに至り、以後、その労働の対価として賃金の支払を受けていること、原告としては、右仮処分に基づく既払の金員について長谷川及び松岡に対していまさら返還を求める意思を有していないこと、したがって、右仮処分決定が取り消される可能性を窺わせる事情がないことを認めることができる。

(三) さらに、《証拠省略》によれば、長谷川は昭和六一年二月一八日に、松岡は同年三月一日に、それぞれ同年二月一九日又は同年三月三日からの新たな雇用契約を締結し、右各契約に従って、ナースコンパニオンとして従来と同一の就労場所で、同一の賃金で、年次有給休暇を付与されるという条件で就労し、その労働に対する対価として賃金の支払を受けたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

右によれば、長谷川及び松岡は、それぞれ本件命令発令時以前である昭和六一年二月一九日又は同年三月三日以降、新たな個別の契約により原職復帰の状態にあったものということができるから、本件命令中、長谷川及び松岡の原職復帰を命ずる部分は、右各時点においては救済利益を欠くに至っていたものである。したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件命令中初審命令第1項(1)を維持した部分は、違法であるといわなければならない。

さらに、長谷川及び松岡は、仮処分決定に基づき、昭和六〇年一二月分までについては、初審命令の命じたバックペイの金額中賃金相当額を現実に原告から受領し、昭和六一年一月分以降については、右のとおり原職に復帰するまで、現実に就労してその労働に対する対価として原告から賃金相当額の支払を受けていたのであり、しかも、原告としては、いまさら支払をした金員の返還を求める意思がなく、右仮処分に対する不服申立て等のないまま、本件命令発布の時点である昭和六三年三月まで仮処分による金員支払という事実状態が継続したものである。そうすると、本件命令の時点においては、初審命令の命じたバックペイ部分をそのまま維持することは、あたかも賃金相当額の二重払いを強制するかのごとき結果となるものであった上、原職復帰について既に履行済みであったのであるから、本件バックペイのような救済を命じる必要性は失われていたものといわなければならない。したがって、本件命令中初審命令第1項(2)を維持した部分は、被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱したものであり、違法であるというほかはない。

2  (団体交渉応諾命令部分について)

次に、団体交渉に関する救済命令につき判断するに、前記のとおり、長谷川及び松岡は、本件命令発令時以前である昭和六一年二月一九日又は同年三月三日以降、それぞれ新たな個別の契約により原職復帰の状態にあったものということができるところ、補助参加人らが要求した団体交渉の協議事項である「新契約における労働条件の変更」は、前記団体交渉申入れの経過からみて、昭和六一年度の新契約の申込みの内容、すなわち、「無契約期間を置くこと、年次有給休暇を与えないこと」を問題とするものであったことが明らかである。右無契約期間の点については、右両名が昭和六〇年に従前の契約との間に間隔を置くことなく雇用関係を継続した場合の雇用期間満了時に当たる昭和六一年二月一八日又は同年三月二日と、右両名が前記各新契約に基づいて就労を開始した同年二月一九日又は同年三月三日との間に、間隔のないことはいうまでもないから、問題とされた無契約期間はなく、また、右両名が年次有給休暇を付与するとの条件のもとに就労していることは前記認定のとおりであるから、各就労状態について前記申入れにかかる団体交渉の対象となる「労働条件変更」がないことは明らかである。したがって、団体交渉についての救済利益は、本件命令当時既に失われていたものといわざるをえない。

なお、補助参加人らは、右「労働条件」に関し、他のナースコンパニオンとの取扱いの格差を強調するが、昭和六一年度の新契約に従った就労について労働条件の上で不当労働行為を構成するものがあったとしても、それは、本件における不当労働行為救済申立てとは別個の申立てを相当とするものであるというべきである。そして、現に、補助参加人支部および同分会は、昭和六一年七月三日、団体交渉の拒否、長谷川及び松岡と他のナースコンパニオンとの賃金上及び仕事上の格差を理由に不当労働行為救済の申立てをし、昭和六二年七月一五日付けで、神労委が救済命令を発令していること(神労委昭和六一年(不)第一〇号不当労働行為救済申立事件)が、《証拠省略》によって明らかである。

したがって、本件命令中、初審命令第2項を維持した部分は違法であるというべきである。

3  (ポスト・ノーティスについて)

以上のとおり、本件命令のうち初審命令の主文第1、2項を維持した部分は、いずれも違法であってこれを取り消すべきである以上、本件命令中初審命令第3項についても、ポスト・ノーティスの補充的、裁量的性格に照らし、これを取り消すのを相当とする。

4  なお、本件命令がその発令時より前に生じた右の各事由により違法であるのであるから、原告がその取消しにつき法律上の利益を有することは多言を要しない。

三  以上の次第で、本件命令はその余の点について判断するまでもなく取り消すべきであり、原告の請求は理由があるので、これを認容し、訴訟費用及び参加費用について民事訴訟法八九条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 相良朋紀 裁判官 松本光一郎 阿部正幸)

<以下省略>

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